
解題:
玉田玉秀斎口演、樋口南洋速記、明治37年2月5日発行(初版)、岡本偉業館(大阪)。内題の書名、口演者、速記者名すべて表紙と同じである。ただし内題書名では角書きではなく「豪傑蟹江才蔵」と表記し、「がうけつかにえさいざう」とルビを付す。蟹江才蔵(実在人物名は可児才蔵)は福島正則の寵臣。今古実録『真書太閤記』第七編(明治15年2月9日御届 栄泉社、国立国会図書館デジタルコレクションで確認)に、(第九)「蟹江才蔵福島に仕ふる事」(目次)/「蟹江才蔵正則が家人となる事」(本文見出し)という一節がある。
𠮷沢英明氏の著書『講談明治速記本集覧 附落語・浪花節』(私家版 平成7年4月)に本書の項目があり(P100下段)、𠮷沢氏の『講談作品事典』(上)(「講談作品事典」刊行会 平成20年10月)P450にも「蟹江才蔵」の項目を立て、本書第一席冒頭の一節を引く。
本書末尾では『豪傑後の蟹江才蔵』に続くと予告されており、𠮷沢コレクションでは、同じ玉田玉秀斎口演で続編の『豪傑後の蟹江才蔵』(明治37年9月5日発行(初版)、岡本偉業館)も確認されている。ただしこの『豪傑後の蟹江才蔵』は、表紙に演者名・速記者名がなく、内題(本文一頁目)も欠く。
さらに、『豪傑後の蟹江才蔵』の本文末尾には、『最後の蟹江才蔵』に続くとの予告があり、𠮷沢コレクションでは、同じく玉田玉秀斎口演、樋口南洋速記(ともに内題より)、岡本偉業館発行の『豪傑最後の蟹江才蔵』が、明治38年2月10日発行の初版と、明治42年2月28日印刷の後刷り(奥付に、刊行日や版数は表示されていない)の計2冊が確認されている。
『講談明治速記本集覧 附落語・浪花節』では「蟹江才蔵」(豪傑後の)までは項目がある。『豪傑最後の蟹江才蔵』は同書にも『講談作品事典』にも言及がないようである。
𠮷沢コレクションの本書3冊計4点はすべて、折込みの色刷り口絵を備える(下は『豪傑後の蟹江才蔵』の口絵)。岡本偉業館は大阪の書肆だが、明治期大阪発行の講談本には折込みの色刷り口絵を付けていることが多いようである(高橋圭一氏ご教示)。

〔奥野久美子〕