大判錦絵二枚続揃物の内、明治27年(1894

解題:

 楊洲周延(1838-1912)は幕末から明治期に活躍した浮世絵師。幕末浮世絵最大の派閥であった歌川派の総帥・三代歌川豊国(とよくに)(1786-1865)に入門し、豊国没後はその弟子である豊原国周(くにちか)(1835-1900)に教えを受けた。画名「周延」は国周の「周」を貰ったもの。一方、越後国高田藩に籍を持つ武士として戊辰戦争に参戦しており、浮世絵師としての活動は、慶応年間(1865-68)に錦絵作品などが知られるものの、概ね明治10年(1877)以降のこととなる。

 明治の役者絵を代表する絵師である師・国周とは対照的に、たおやかな女性像を得意とした。代表作には新時代明治の「美人」を描きとめた「真美人」(大判錦絵36枚揃、目録2図、明治30、31年〔1897,98〕)や江戸時代には決して描かれることがなかった江戸城内をテーマにした「千代田之大奥」(大判錦絵三枚続揃物、107枚、明治27〜29年)「千代田之御表」(同、115枚、明治30年)などが知られる。

 「日本名女咄」は歴史上の賢女たちを取り上げた二枚続による錦絵シリーズで、他に「武田勝頼室北の方」「桂小五郎 芸者竹松」「木曾義仲の妾巴女」など10図以上が確認できる(刊行は明治28年までと目される)。本図は徳川幕府三代将軍家光(幼名竹千代)を育てた春日局が選ばれ、弟君国松の部屋から侵入した猫をめぐる逸話が描かれている。

〔菅原真弓〕